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高知地方裁判所 昭和62年(ワ)499号 判決 1989年9月28日

主文

一  原告兼反訴被告らは、各自、被告兼反訴原告藤田明夫に対し、金二七〇万二四二五円及び内金二四五万二四二五円に対する昭和六二年八月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告兼反訴被告らは、各自、被告兼反訴原告醒井正義に対して、金二〇四万六六三〇円及び内金一八五万六六三〇円に対する昭和六二年八月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの本訴請求及び反訴原告らのその余の反訴請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、これを一〇分し、その九を原告兼反訴被告らの負担とし、その余を被告兼反訴原告らの負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告らは、原告らに対し、いずれも昭和六二年八月二六日午前一〇時三〇分ころ高知市小石木町二七番地五号先路上において発生した原告三谷寿幸運転の普通乗用車(高五五つ五二〇〇)と被告藤田明夫運転の普通貨物自動車(高八八な一八九一)との追突事故を原因とする損害賠償義務の存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  反訴被告らは、各自、反訴原告藤田明夫に対し、金三二五万二四二五円及び内金二九五万二四二五円に対する昭和六二年八月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  反訴被告らは反訴原告醒井正義に対し金二三五万六六三〇円及び内金二一五万六六三〇円に対する昭和六二年八月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  反訴訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

4  1、2項につき仮執行の宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告らの請求をいずれも棄却する。

2  反訴訴訟費用は反訴原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(以下、原告兼反訴被告三谷寿幸を「原告三谷」、同吾北村農業協同組合を「原告組合」、被告兼反訴原告藤田明夫を「被告藤田」、同醒井正義を「被告醒井」という。)

一  本訴請求の原因

1  本件事故の発生

日時 昭和六二年八月二六日午前一〇時三〇分ころ

場所 高知市小石木町二七番地五号先路上

加害車両 原告三谷の運転する普通乗用自動車(高五五つ五二〇〇)

被害車両 被告藤田運転の普通貨物自動車(高八八な一八九一、高知市清掃公社のバキユームカー)

態様 原告三谷が前方不注視により、右折車待ちで停車中の被害車両(被告醒井外一名が同乗中)に加害車両を後方から追突させた。

2  本件事故により、被告藤田は頸椎挫傷、腰椎挫傷の傷害を、また、本件被害車両に同乗していた被告醒井正義は頸椎挫傷の傷害をいずれも負つたとして、それぞれ図南病院において現在入院加療中である。

3  本件加害車輌の保有者は原告組合であり、その運転者は原告三谷である。

4  本件事故の追突による衝撃は極めて軽微であるから、被告らにおいて、本件事故による損傷は全く存しないものである。

被告藤田は腰椎々間板ヘルニアの既往症を、被告醒井は本件事故前の事故で頸外傷、右股外症の既往症を有していた為、本件事故後図南病院に入院しているものであるが、本件事故とは因果関係がない。

5  以上のとおり、本件事故による人身損害は全く存在しないにもかかわらず、被告両名は図南病院へ入院の上、自賠責保険手続請求に及んでいる。

6  よつて、原告らは被告らに対し、いずれも本件事故による損害賠償義務のないことの確認を求める。

二  本訴請求の原因に対する認否

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実は否認する。

3  同6、7の主張は争う。

三  反訴請求の原因

1  本訴請求の原因1ないし3の事実を援用する。

2  本件事故により、被告らは後記のとおり受傷した。

3  責任原因

原告三谷は前方不注意の過失により被告らに傷害を負わせたものであるから、民法第七〇九条により損害賠償責任がある。

原告組合は、加害車両の保有者であり、運行供用者であるから自賠法第三条により損害賠償責任がある。

4  損害

(被告藤田について)

(一) 受傷及び治療経過

(1) 受傷 頸椎挫傷、腰椎挫傷

(2) 治療経過

図南病院 入院 昭和六二年八月二八日~同年一〇月二五日(五九日間)

通院 昭和六二年八月二七日

昭和六二年一〇月二六日~同年一二月三一日(実日数二七日)

但し、その後も通院して治療継続中

(二) 治療関係費 金一一五万八九八〇円

(1) 治療費 一〇九万一九八〇円

(2) 文書科 八〇〇〇円

(3) 入院雑費 五万九〇〇〇円

一日一〇〇〇円として五九日分

(三) 休業損害 金七九万三四四五円

被告藤田は高知市清掃公社の職員であるが、本件受傷により昭和六二年八月二七日から同年一一月八日迄七四日間欠勤した。

被告藤田の昭和六二年六月分から八月分までの賃金は左記のとおりであり、一カ月の平均賃金は三二万一六六七円である。

六月分 三一万九四〇〇円

七月分 三二万一八〇〇円

八月分 三二万三八〇〇円

右三カ月平均 三二万一六六七円

よつて被告藤田の休業損害は左記計算により金七九万三四四五円となる。

321,667×74/30=793,445

(四) 慰謝料 金一〇〇万円

被告藤田は治療継続中であるが、受傷の程度、治療経過からして金一〇〇万円を下らない。

(五) 弁護士費用 金三〇万円

被告藤田は本件訴訟を弁護士戸田隆俊に委任しているが、本件交通事故と相当因果関係のある損害として金三〇万円を請求する。

(被告醒井について)

(一) 受傷及び治療経過

(1) 受傷 頸椎挫傷、腰椎挫傷

(2) 治療経過

図南病院 入院 昭和六二年八月二八日~同年一〇月一〇日(四四日間)

通院 昭和六二年八月二七日

昭和六二年一〇月一一日~同年一〇月二八日(実日数一四日)

(二) 治療関係費 金八六万八六八〇円

(1) 治療費 八一万六六八〇円

(2) 文書科 八〇〇〇円

(3) 入院雑費 四万四〇〇〇円

一日一〇〇〇円として四四日分

(三) 休業損害 金五八万七九五〇円

被告醒井は高知市清掃公社の職員であるが、本件受傷により昭和六二年八月二七日から同年一〇月二〇日迄五五日間欠勤した。

被告醒井の昭和六二年六月分から八月分までの賃金は左記のとおりであり、一カ月の平均賃金は三二万〇七〇〇円である。

六月分 三二万二七〇〇円

七月分 三二万一二〇〇円

八月分 三一万八二〇〇円

右三カ月平均 三二万〇七〇〇円

よつて被告醒井の休業損害は左記計算により金五八万七九五〇円となる。

320,700×55/30=587,950

(四) 慰謝料 金七〇万円

被告醒井は治療継続中であるが、受傷の程度、治療経過からして金七〇万円を下らない。

(五) 弁護士費用 金二〇万円

被告醒井は本件訴訟を弁護士戸田隆俊に委任しているが、本件交通事故と相当因果関係のある損害として金二〇万円を請求する。

5  よつて、原告らに対し、被告藤田は金三二五万二四二五円、被告醒井は金二三五万六六三〇円及びそれぞれ弁護士費用を控除した内金に対する本件交通事故の翌日である昭和六二年八月二七日から完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  反訴請求の原因に対する認否

1  反訴請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3のうち原告組合の保有者責任の根拠については認めるが、原告三谷の責任で争う。

4  同4の損害は不知。但し、弁護士戸田隆俊に訴訟委任したことについては認める。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本訴請求の原因1ないし3及び反訴請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲号各証及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙号各証、証人富田豊年の証言、原告三谷及び被告らの各本人尋問の結果によれば、被告らはいずれも本件事故により被告ら主張の各受傷をしたことが認められ、本件事故による被告らの損害につき、原告三谷は民法七〇九条により、被告組合は自賠法三条により、賠償責任を負うべきである。

原告らは、本件事故の追突による衝撃は軽微であるから、被告らが受傷することはあり得ない、被告らの治療は、被告藤田は腰椎椎間板ヘルニアの既往症を、被告醒井は本件事故前の二回の交通事故による頸外傷、右股外傷の既往症を有していたためであるから、被告らの治療は本件事故とは因果関係がない旨主張する。

しかし、前掲各証拠によれば、加害車両は少なくとも時速約二〇キロメートル(原告三谷の刑事事件における自供どおりであれば)で被害車両に追突したものであることが認められ、加害車両の損害程度に照らしても、同追突による衝撃が軽微であつたとは考えられない。確かに、被害車両の損傷はバキユームカーのホース受けのバケツが損傷しただけであるが、加害車両は被害車両の後部バンパーに衝突したものであり、同後部バンパーは鋼鉄制であつたため損傷に至らなかつたものと推察されるし、被告らと同様に被害車両に乗車していた訴外光内正一は受傷しなかつたようであるが、事故による受傷の内容、程度はそのときの人の姿勢、その人の固体差などにより様々であり、同訴外人が受傷しなかつた事実をもつて、被告らの受傷を否定する根拠とするわけにはいかない。そして、被告らとも退院間近まで吐き気、頭痛、不眠等の症状を訴えていたことが認められ、被告らの受傷と本件事故との因果関係は否定できないといわざるをえない。前掲各証拠によれば、被告らには、原告らの主張の各既往症があることは認められるが、同既往症は、本件事故前に一応治癒していると認められる。そして、被告らの受傷及びその治療の内容、程度が、本件のような追突事故があつた場合に社会通念上考えられる範囲を越えていることを窺わせる証拠もない。

三  損害

1  前記認定事実及び前掲各証拠によれば、被告ら主張の受傷、治療経過の事実が認められ、被告らは主張の治療費、文書料、入院雑費(一日一〇〇〇円として入院日数分)の損害及び休業損害が生じたことが認められる。なお、被告らの職業は、し尿処理等の清掃作業であつて、同職種(重労働とはいえないが、普通以上の労働と思料される。)に照らすと、被告らの職場復帰までの期間が不相当に長いとは考えられない。

2  慰謝料について

前記認定の受傷の部位、程度及び治療期間、治療経過その他本件に顕れた諸般の事情(被告らには前記の各既往症がありこれら既往症が本件事故による被告らの治療を長引かせたのではないかとの疑いが捨て切れないこと、被告らの入院治療中の態度は真摯であつたとは言いがたいこと、被告らの受傷は専ら主訴に基づくものであり、他覚的所見によるものではないこと、原告三谷は本件事故につき道路交通法違反罪で処罰されたのみで業務上過失傷害罪には問われなかつたこと等)を勘案すると、被告らの前記受傷に対する慰謝料は、被告藤田が五〇万円、被告醒井が四〇万円とするのが相当である。その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  以上により、被告藤田の損害は二四五万二四二五円、被告醒井の損害は一八五万六六三〇円となる。

五  弁護士費用について

被告らが本件代理人に本件訴訟委任したことは、当事者間に争いがない。本件事件の性質、審理経過、認容額等に照らすと、被告らに原告らが請求しうべき弁護士費用は、被告藤田が二五万円、被告醒井が一九万円とするのが相当である。

六  よつて、被告藤田の反訴請求は、被告藤田が、原告らに対し、各自二七〇万二四二五円及び内金二四五万二四二五円に対する昭和六二年八月二七日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、被告醒井の反訴請求は、被告醒井が、原告らに対し、各自二〇四万六六三〇円及び内金一八五万六六三〇円に対する前同様の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本由実子)

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